ユング心理学 アニマ 4

アニマの第3段階は霊的な段階で、聖母マリアによって典型的に示される。ここにおいてはセックスは聖なる愛へと高められているということができる。これは母でありながら、同時で処女であり、母親としての至高の愛と乙女の限りなき清らかさを共存せしめている。これだけを聞くと恋愛経験の少ない男の妄想であり、何故これがロマンチックアニマより上の段階なのか私にはよくわからないが、この段階に続くものとして叡智のアニマがある。この最終段階のアニマの心像としては、ギリシャ神話のアテネや北欧神話のヴァルキリーなどが例示される(ヴァルキリーはやや低級の女神であり、ブリュンヒルデの印象もあるので適当でないかもしれない)。兜と鎧につつまれた両者は、男性のような冷たさと輝きをもち、不思議な深い知恵を感じさせる。この段階のアニマ像としてわざわざ西洋の女神をあげなくとも、我が国の有名な中宮寺の弥勒菩薩像があげられる。

アルカイック・スマイル(*1)と静かで悲しみをたたえている慈悲の表情は見る人の心を打つだろう。これは聖母マリアの示す愛とことなるものと誰もが感じるだろう。また、これをミロのヴィーナスと比べようとは思うまい。この現存する心像の不可思議な魅力はやはり深い知恵のように思える。多くの観音菩薩像が男性のようであれば女性のようでもあり、むしろ女性的であるのは、女神アテネやヴァルキリーが甲冑を身に着けている点と相呼応する。菩薩の笑みにモナ・リザの微笑をうかべたひともいるが、モナ・リザも西洋における、この段階のアニマ表現の一つであると考えられる。

河合氏は第3段階の聖母マリアのようなイメージがわが国ではほとんど発展させられていないにもかかわらず、第4段階のイメージはむしろ西洋よりは日本のほうが多いと考えられると述べている。

以上の4段階のアニマはユングが思弁的に作り出したものではなく、多くの男性の分析の結果による、経験的に生じてできたものである。アニマの像は複雑怪奇であり、簡単に分類されることさえ抵抗を感じるものであるが、実際に夢分析を行った場合、前述の段階を飛び越して発展させることが困難なことを指摘した点に、ユングの功績があると考えられる。そして、この4段階を経たあとにアニマはもはや人間像をとって表現されることなく、一つの機能(function)として、我々の自我を、その心の真の中心である自己に関係づけるものとなる、とユングはいう。

私の以前の主治医は、叡智のアニマの段階に達したのはソクラテスくらいのものであり、アニマとともにペルソナをまず成長させよといった。それが外的社会に対応できない私への慰めなのか、事実なのかわからないが、分析をうけないと、現在今どの段階のアニマであるのか判然としないため、自我を自己に統合するとか、ユングが言う概念的な自己の発展の説明は割愛させていただくつもりである。

(*1) :アルカイク・スマイルアルカイックスマイル、英: Archaic smile)とは古代ギリシアのアルカイク美術の彫像に見られる表情。 紀元前6世紀の第2四半期に例が多い。 顔の感情表現を極力抑えながら、口元だけは微笑みの形を伴っているのが特徴で、これは生命感と幸福感を演出するためのものと見られている。