繭の森 1

深い森の中だ。種類のわからない背の高い緑の樹木の森。木々の様々な太さの枝や、地中にむき出した木の根が絡み合って、森全体が血管のようになっている。樹の中央部には静脈瘤のようなコブがあるのも多い。高い樹が日光を遮っているのか、暗いのだが、樹についた苔が発光しているのか明かりはある。暗視カメラのような緑の世界。

女を売っているアキバムラの女衒のアキモトという男を殺したことを確認する。俺の仕事は撲殺だからグローブはつけない。裸拳で殴ると折れた拳の骨が皮を破って、仕事ができなくなったことがあったので、バンデージの撒き方をカメダという兄弟から教わった。今日の仕事はタケナカという元のムラオサだ。この男は、この繭の森の機構を作った人間の一人であり殺せば、森の神様の怒りがおさまるという。森の神様ってなんだよ。とシャボンという女ソンチョウにきいたのだが、いつもの如く、教えてくれない。タケナカは前髪をセンターに分けた小男であり、頭はいいかもしれないが、勝てるだろうと、半ばぼんやりした意識で、ロッポンギムラに行った。タケナカはおびえていたが、観念したように、ブリーフ一丁になった。元ムラオサでも森の掟には逆らえない。森の神へのいけにえは、染みのついた白ブリーフ一丁になる代わりに、包丁一本渡される。この刃物一本で、儀式に勝てば、つまり俺を殺せば、いけにえはロケット鉛筆式に押し出されて、次のいけにえに無事バトンタッチできる。タケナカは頭がいいから、根回しでもして今回の儀式は別のどうでもいいやつになるだろうと思っていたが、養殖のブロイラーみたいな腹の出た半裸の姿をみると、どうやらそれも失敗したようだ。包丁はささる。どうしても。俺は空手の達人でもないし、なにかに導かれし人間ではない。でもなんか死なないし、普通のやつは一日でやめるのに毎日出勤してるから続いてるだけだ。包丁が複数回腹にささって大量に出血する俺をみて、タケナカは何か気付いた顔をしたが、俺は殺すために何回も殴らなければならなかった。俺はゴリラみたいな力もないし、毎日筋トレもしていないので、特段殺意を抱いていない人間を殺すのはとても疲れる。顔は堅い部分が多いので、最初から狙うと拳が割れてしまう。腹や胸を叩いているとうめき声がうるさいうえに、日が暮れてしまうので(もっとも昼夜はないようだが)、喉を狙うのが一番速いことに最近気付いた。喉はなかなか狙えないので、みぞおちを蹴って、膝が折れたところを、下から狙う。タケナカは放尿しながら何か言っているが、俺は快感を感じながら鼻を殴り続けた。呼吸器が壊されると、大体死ぬ。そう思ってタケナカだったアンモニアと糞のにおいがするブリーフを脱がし、戦利品として持ち帰った。刺された自分の腹からでる腸をひきずって、シャボンのもとに帰る。この着物を着た巨乳の派手な女は、仕事の報酬に一発抜いてくれるわけでもなく、ただブリーフの代わりに2千円札をくれる。腸がでて、出血が激しいのにしっかりしていた意識は、シャボンのそばに行くと朦朧とする。こいつを撲殺したいと何度も思うのだが、俺はまた森のどこかで、目が覚める。目が覚めるとアメという少年がいつもいて、前のいけにえの記憶が消される。腹のでた父つぁん坊やの老人の記憶を殺した記憶はあるのだが、誰だったかはもうわからない。この手記を読み返せば、そうだったんだろうなと思うだけである。